cat

我輩は猫である。
名前はまだ無い。

どこで生れたか頓と見當がつかぬ。
何でも薄暗いじめじめした所でニヤーニヤー泣いて居た事丈は記憶して居る。
吾輩はこゝで始めて人間といふものを見た。

然もあとで聞くとそれは書生といふ人間中で一番獰悪な種族であつたさうだ。
此書生といふのは時々我々を捕へて煮て食ふといふ話である。

然し其當時は何といふ考もなかつたから別段恐しいとも思はなかつた。
但彼の掌に載せられてスーと持ち上げられた時何だかフハフハした感じが有つた許りである。

cat1

掌の上で少し落ち付いて書生の顔を見たのが所謂人間といふものゝ見始であらう。
此時妙なものだと思つた感じが今でも殘つて居る。
第一毛を以て装飾されべき筈の顔がつるつるして丸で薬罐だ。
其後猫にも大分逢つたがこんな片輪には一度も出會はした事がない。
加之顔の眞中が餘りに突起して居る。

掌の上で少し落ち付いて書生の顔を見たのが所謂人間といふものゝ見始であらう。
此時妙なものだと思つた感じが今でも殘つて居る。
第一毛を以て装飾されべき筈の顔がつるつるして丸で薬罐だ。
其後猫にも大分逢つたがこんな片輪には一度も出會はした事がない。
加之顔の眞中が餘りに突起して居る。

掌の上で少し落ち付いて書生の顔を見たのが所謂人間といふものゝ見始であらう。
此時妙なものだと思つた感じが今でも殘つて居る。
第一毛を以て装飾されべき筈の顔がつるつるして丸で薬罐だ。
其後猫にも大分逢つたがこんな片輪には一度も出會はした事がない。
加之顔の眞中が餘りに突起して居る。

cat2

果てな何でも容子が可笑いと、のそのそ這ひ出して見ると非常に痛い。
吾輩は藁の上から急に笹原の中へ棄てられたのである。

漸くの思ひで笹原を這ひ出すと向ふに大きな池がある。
吾輩は池の前に坐つてどうしたらよからうと考へて見た。別に是といふ分別も出ない。

ニヤー、ニヤーと試みにやつて見たが誰も來ない。其内池の上をさらさらと風が渡つて日が暮れかゝる。
腹が非常に減つて來た。泣き度くても聲が出ない。
仕方がない、何でもよいから食物のある所迄あるかうと決心をしてそろりそろりと池を左りに廻り始めた。
どうも非常に苦しい。
そこを我慢して無理やりに這つて行くと漸くの事で何となく人間臭い所へ出た。
此所へ這入つたら、どうにかなると思つて竹垣の崩れた穴から、とある邸内にもぐり込んだ。

CAT3

2018.02.09

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縁は不思議なもので、もし此竹垣が破れて居なかつたなら、

2018.02.09

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吾輩は遂に路傍に餓死したかも知れんのである。
一樹の蔭とはよく云つたものだ。

2018.02.09

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此垣根の穴は今日に至る迄吾輩が隣家の三毛を訪問する時の通路になつて居る。

2018.02.09

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偖邸へは忍び込んだものゝどうすべきかが全く分からない

2018.02.09

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是から先どうして善いか分らない。
其内に暗くなる、腹は減る、寒さは寒し、雨が降つて來るといふ始末でもう一刻も猶豫が出來なくなつた。

主人は餘り口を聞かぬ人と見えた。

  • 下女は口惜しさうに
  • 吾輩を臺所へ抛り出した。
  • かくして吾輩は遂に此家を
  • 自分の住家と
  • 極める事にしたのである。

主人は餘り口を聞かぬ人と見えた。

  • 下女は口惜しさうに
  • 吾輩を臺所へ抛り出した。
  • かくして吾輩は遂に此家を
  • 自分の住家と
  • 極める事にしたのである。

主人は餘り口を聞かぬ人と見えた。

  • 下女は口惜しさうに
  • 吾輩を臺所へ抛り出した。
  • かくして吾輩は遂に此家を
  • 自分の住家と
  • 極める事にしたのである。